だるまストーブに火が入る

十年以上前から使っているだるまストーブ。錆びて汚れて芯も古くなって火がつきにくくなった。
先日から急に寒くなったので、母がそのボロボロのだるまストーブを引っ張り出してきた。
帰ってくる慈海を気遣って、火を入れてくれていた。暖かい。
ストーブの上にかけられたやかんが、チリチリチンチンと音を立てている。
そんな冬らしい音を聞きつつ、手をあぶりながら、隙間からストーブの中を覗き、ほわほわと揺れる炎を眺めるのが好きだ。
「ある男が、七輪を必死にパタパタと扇いでいたんやと。しかし一向に火がつかない。諸仏がその男の横を通りすぎた時、七輪の中を覗きこんだんやと。そしたらな、なんとまぁ、火種が入っとらん。火種がねえと、そりゃぁいくら扇いでも、火はつかんわなぁ。諸仏はあほやなぁ、そりゃいくら扇いでも無理やと、過ぎ去ったときにな、阿弥陀さんがやって来たんやと。でな、同じように火種の入ってない七輪を覗きこんで、まぁ、そうかぁ、火種がなきゃぁ火はつかんわなぁと、あわれんだそうや。そうか、そんならな、わしが火種となってやろうと、男が必死で扇いでいる、七輪の中の真っ黒の炭団の中に入っていかれたんやと。」
以前聞いた、そんな話をふと思い出す。
今であれば、ストーブやろか。
灯油をタンクいっぱいにして、芯をいくら出しても、火はつかん。叩いてみても、揺すってみても、冷たい鉄のかたまりのまま。冷えた手を暖めることも、やかんの水がチンチンの湯になることもない。
阿弥陀さんがそんな慈海を見かねて、マッチになって頭を擦って、火種となってストーブのなかに飛び込んだ。
誰にも見えん心の中。真っ黒な炭団の中に火が点る。
なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ