身寄りのない仏壇

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数ヶ月前のこと、身寄り(?)のない仏壇、というか小さな厨子を預かった。
ご遺影やご位牌はおろか、ご本尊や経本まで揃っていた。

気持ち悪がられ、打ち捨てられた。
それを拾って、一時的に預かっていた方々が、始末に困り、慈海に連絡してきた。

雪の中伺うと、埃をかぶったそのご遺影とお厨子が、倉庫の奥からガタガタ音を立てながら事務所の机の上に安置された。
預かってらした方々が、お花と供物を用意され、綺麗に拭き清められた。

慈海は、それを荘厳し、阿弥陀経のお勤めをする。

ご位牌の主は、きっと毎日この厨子を開いて、お勤めされてきたのであろう。
このご本尊は、幾度その涙を慰め、幾度喜びの声を聞いたのだろう。

最後の仕事と、慈海に経を聞かせてくださる。
慈海はそっと、よかったですね、と応える。

春になったら燃やしに行こう。
そう思いながら、自宅まで持ち帰った。

そして、先日。
3月の終わりにしては、暑いくらいの陽気の日に、再びそのご遺影とお厨子を車に詰め込み、山の畑に運んだ。

火をたく準備をするだけで額から汗が吹き出すほどの陽気であった。
時折山から降りてくる風が心地よかった。

丸めた新聞紙に火をつけ、バラバラにしたそのお厨子をくべていくと、想像以上に早く火が回っていった。
長い年月の中、古くなった木は、乾燥しきっていたのだろう。

火の勢いが大きくなったところで、ご本尊とご位牌をくべる。
そして、最後にご遺影をそっと火の上に横たえた。

炎が立ち、ゴウゴウと音を立てる。
煙がゆらめきながら青い空に昇って消えていく。
その煙の行き先に、御役目、ご苦労様でしたと、手を合わした。

しばらくたって、炎も落ち着いた頃、突然赤い炭の中からバチバチと音がした。
何か変なものでも混じっていたかと、炭の中を覗くと、生きた蛙がいた。

焚き火のせいか、冬眠から覚めてしまったのだろうか。
土の中から出てきたはいいが、まだ蛙には少し冷たい風に、暖をとろうと誤って飛び込んでしまったのだろうか。

反射的に木の棒を炭の中に突っ込み、その蛙を弾き出した
草むらの奥に、あわてて跳ねて行き、見えなくなった。

供養しようとしたのだろうか。
とっさに、口から念仏が溢れる。
なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ……と、呟く。

呟きながら、
「その念仏はどういうつもりの念仏や」
と、師の声を聞いた気がした。

なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ