散華のように雪が舞う朝でした

「今日は妹の命日なんです。」
おあさじにお参りに来られた方がそうおっしゃるので、それならばと、晨朝勤行の後、阿弥陀経様をいただきました。

「白血病でした。いまから十年ほど前のことでした。用事で泊まりに来て、朝送っていこうとしたところ猛吹雪でしてね、それでこれは出られないかもしれないなと寝ている間に、気を使ってこっそり起きる前に帰っちゃってたんです。そのあと急変して、もう会うことはありませんでした。」

もうしわけなかった、かわいそうなことをしたと、今でもふと思い出すそうです。
そうでしたか、そうだったんですね、と頷きながら聞き、今朝も少し仏様の話をしますねと、いつも通り短い御本願のお話をしました。

死ぬことも、生きることも、素晴らしいのです。
生きることが素晴らしくて、死ぬことがかわいそうなことではないんです。
生きることが苦痛だから、死ぬことを望むのではないのです。
生きることも、死ぬことも、同じく素晴らしい。
だから、死んでいかれた方を、かわいそうとは言わないでほしい。
決して、かわいそうなものになるために、私は今生きているわけではなかった。
決して、寂しいものになるために、今この世界に生きているすべてのものは、生きているわけではない。
仏様は、生きることも死ぬことも、素晴らしいのだと、生と死を分けることなく、この私の命全てが、存在全てが、素晴らしい命なのだと、常に今もほめてくださっている。
「なもあみだぶ」とつぶやけば、この耳に「なもあみだぶ」とほめてくださる。
そんな話を、これからも聞いていきましょう。

少し寂しげだった表情が、少しずつ赤く染まり、ホッとした表情で「きょうもほんとにありがとうございました」と深々と頭を下げられました。
こちらも深く頭を下げます。
そしていつも通りに、また同じくお念仏を申し、お御堂の戸を開けると、白いものが舞っていました。二人とも同時に「あらぁ」と声が出ます。
明るくなってきた境内に、散華のように雪が舞っています。とても綺麗でした。

「降ってきましたねぇ。うふふ……」
そう言いながら、いそいそと帰っていかれる後姿に、どうぞ気をつけて帰ってくださいねと声をかけながら、蝋燭の火を消しました。

なんまんだぶ