夕方、ひと雨来そうな空模様の下、急いで掃除道具を片付けていると、とうとう大粒の雨が降ってきた。
まだ明るい西の空を、かあかあと舞っていた群れが慌てて鹿島の森に帰っていく。
帰る場所があるのはいいね。それが場所でも記憶でも。
本降りになってきたので、館内を見回って窓を閉めて回っていると、父から電話。
先日、庭に咲いた向日葵の写真をNHKに投稿し、それが採用されて、これからNHKの天気コーナーのあとで紹介されるのだという。父の声が久々に明るい。
ここ吉崎に来て始めてテレビのスイッチを入れた。
父が育てた背の高い向日葵が写る。きっと今ごろ実家では、父と一緒にテレビを観ている母が父以上に大騒ぎして、父は照れ混じりの苦笑いをしていることだろう。
実家の仏間に「葵傾(きけい)」という時の讃額が掲げてある。若い頃父がその字の意味をお手次のお寺さんに尋ねたところ「向日葵がいつも日に顔を向けているように仏様の方を向いていきましょうという意味ですよ」と教えてもらったそうだ。*
仏間で話し込んでいるといつも父はこの話をする。
きっと、向日葵の世話をしながらもその話を何度も思い出しつつ、背がどんどん伸びていく姿を楽しみに眺め、そして大輪の花を咲かせるのを心待ちにしていたんじゃないだろうか。
明日は、久々に両親と食事をしよう。
なんまんだぶ
*「葵の御紋」から幕府に対する忠誠を云々という説もあるそうだが、ここではそういう話ではないので知識の鎧は一旦脱いでお読みください