人知れず戦っていました

ここ数日、朝の掃除中に天井裏の隙間からパラパラと土埃が落ちてくるのです。

「ほう、やる気かね?」

そのたびに天井裏を仰ぎ、微かな気配に向かって慈海はつぶやくのでした。

ここ数日の雨風で汚れが目立つので、今朝はお御堂回りの通路を念入りに雑巾がけをしました。汗だくになって、よーしおあさじの準備をしようとしたところで足の裏にジャリっと不快な感触がありました。

「なるほど。少しも遠慮はないってことだね? よろしいならば戦争だ。」

今日一日、お御堂に行くたびに、天井裏に向かって宣戦布告を繰り返す慈海。出ていくなら今のうちです。慈海はちゃんと申し送りをいたしました。なんどもなんども涙をのみながら出ていくように諭して歩きました。

夜も更け、風も止み、お御堂の明かりを消すと、わずかな外灯の明かりをのこして、境内は闇に包まれました。

時は来ました。

先日購入してあった”獣除け線香”を携え、お御堂に向かいます。出入り口になっているであろう天井裏の隙間を狙い、線香に火を灯し、目の痛くなる煙にむせながらひとつ、またひとつと設置していきました。

事前に通告していたからでしょうか、天井裏からは何の気配も感じません。いつにもましてシンとしたお御堂に、少し寂しさを感じます。

5時間もすると線香も燃え尽きるでしょう。そしてお御堂の天井裏はカプサイシンの刺激臭で充満しているはずです。明日の朝、お御堂を開けたとき、そこにどんな景色が広がっているでしょうか。

土埃は落ちているでしょうか。ガタガタと天井裏のねぐらに帰っていく足音を聞くこともないでしょうか。

なんまんだぶ