「あっついのぉ!」
そういいながら父と母が吉崎の花壇の世話を手伝いに来てくれた。
「これ冷蔵庫いれとけや」と段ボール箱を渡され、なかを覗くとペットボトルのジュースとたくさんのゼリーが入っていた。
ーありがとう。でもなんでゼリーこんなに(笑)
と言うと、「お前ゼリー好きやってお母さんが買って入れたんや」と父。母が草をむしりながら「好きやんなぁ」とニコニコ顔。
正直なところ、慈海はゼリーが嫌いではないけど別に好物でもない。母に最近ゼリーが好物だと言った記憶もない。
そういえば、昔から「はい、あんた好きやろ」と、母がゼリーを買ってきてくれる事がよくあった。その度に、別に好物って訳じゃないよと笑って言っていたけれども、でもしばらくすると、また「はい、あんた好きやろ」と買ってきてくれる。
慈海は忘れてしまっているけれども、もしかすると幼い頃とかに喜んで食べていた事があったのかもしれない。もしくは、何気なく自分で買ってきていたのを母が見かけて、この子はゼリー好きなのねと思い込んだのかもしれない。
少し前までは、そんな母の勘違いを笑ったり、何度言っても買ってくるのをもったいないといったりしていたけれども、慈海が忘れてしまっている自分自身の姿が、ぼけ始めた母の頭になかにはきっとしっかりと刻まれているのかもしれない。
そして、本人さえ忘れてしまっている、その息子の喜ぶ顔をまたみたくて、喜ばせようと、何度も何度も、「あんた好きやろ」とゼリーを買ってきてくれているのかもしれない。
そんな、自分が忘れてしまった母の中の自分を思いながら、差し入れのゼリーを食べる。
ゼリー、おいしいな。
なんまんだぶ