まるでそこに蓮如さんがいらっしゃるかのように

今日いらしたその方は、部屋に入りその塑像を見つけられると、静かに前まで進まれて、ゆっくりと正座されると手を合わされた。

「なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ …」

手にされているお念珠が、小さなお念仏の声とともにゆっくりと揺れる。

案内していた慈海は、その光景に息をするのを忘れる。気が付けば慈海自身も膝が折れ、同じく背を正して座り、手が合わさっていた。

「なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ …」

これまでも幾人かの方々をその塑像の前までご案内した。そしてどのかたも、その朽ちかけた塑像を見下ろして、「あらぁ」と驚きの声を上げ、眉をひそめ、「もったいないねぇ」「なんとかせんとねぇ」と言いながら通り過ぎて行った。

それは、慈海も同じであった。

いままで、このお姿に手を合わせようとしたことがあっただろうか。ただ単に、モノとしてしか見えていなかったのではないか。

「そうですかぁ……。釈尊のおっしゃることは、ほんとうに真でありましたなぁ」

そうおっしゃいながら、ゆっくりと立ち上がられるお姿は、まるでそこに蓮如さんがいらっしゃるかのようにも見え、なんともかたじけない思いがした。

なんまんだぶ