「私にはね、毒が、毒があるんです。」

お晨朝が終わってお御堂から出たところ、ぽとりとムカデが足元に落ちてきました。

「おぉ、ようこそお参りに来なさった。朝のお勤めは気持ちいいすねぇ。」
と声をかけるのですけど、こっちの声が聞こえていないのか、慌ててどこかの隙間に逃げ込もうとジタバタしています。

「そんなん慌てんでも別につぶしたりしませんよ。」
と声をかけると、そのムカデは、落ち着きなくジタバタさせていたたくさんの足を少し止めて、

「いやぁ、そんでも私は…臆病なもんで……あの…つい、ついですね、驚いくとかみついてしまうもんで……」
と、見た目と違ってなかなか謙虚なやつでした。

「驚かせたのは私の方だし、咬まれたわけじゃなし、まぁゆっくりしていきなさいな」
と声をかけると、

「いやぁ、そんでも、そんでも、私は、私にはね、毒が、毒があるんです。だから……」
そうしょぼくれたあと、またバタバタと足を動かして、床板の隙間に隠れていきました。

なんまんだぶ