「なんや、死んだ後の方が忙しそうやな。」

「今日とも知れず明日とも知れず、ってなぁ~」

そう言いながら近所のおじさんが入ってこられた。数か月前に癌が見つかり、手術をしたものの全身に転移して今は抗がん剤を投与されながら、それでも「食ってかなアカンからな」と、林業の仕事を続けていらっしゃる方だ。

「これが入道(慈海のこと)に会うのも最後になるかもしれんなぁ~」

と、にやりと笑いながら話し始めたことは、最近のニュースの話だったり、政治の話だったり、グチだったり、家族への感謝の言葉だったりと、とりとめもない。

「まぁ、でもよ、おれもちょーっと悪いことしてきたからよ、ちょーっとだけだけどな、ほんのちょーっとだけ、まぁ、俺みたいなどうしようもないやつは、間違いなく地獄行くんだろうからよ。だから、入道、死んだら俺が迷わないように”さっさと地獄行け”ってな、お経あげにきてくれな。」

と笑い顔とも、泣き顔ともわからない表情で話される。

「そやねぇ。間違いなくおんちゃんは地獄行くんやろうね。」

そう言いながら、涅槃経にある『阿闍世の廻心』の話をする。

「だから、そやねぇ、死んだあとお浄土でぼーっとしてられると思ったら大間違いやろうねぇ。今娑婆世界にいるときの方がぼうっとしてられるんかもしれん。やから、今のうちにしっかりぼけーっとしといたらいいやないの。」

というと、

「なんや、死んだ後の方が忙しそうやな。」

そう言って困った顔を作った後に、またにやりとあどけない男の子のような表情で笑うのだった。

酒の匂いか、薬の匂いか、少し甘ったるいにおいの息を吐きながら、「ほなまたな!」と帰っていかれたと思ったら、しばらくしてこんどは参拝者の方らしいご夫婦と一緒にまた階段を上がってこられた。

「おーい!お客さんや!説明してやってーや。」

遠方から「一度来たかったんです」とおっしゃるそのご夫婦にいろいろとお話をしている間、おじさんも隣に座って静かに話を聞いてらしたけれども、突然

「よかったやろ!来てよかったやろ!いい御縁にあえたな!」

と大声で声を出すそのおじさんの目から、涙がボロボロとこぼれていらっしゃった。

なんまんだぶ